ウィルトス・中尾有さんに訊いた!日本ワインのキーパーソンが語る、オレンジワインを飲む理由。

オレンジワインは一過性の"ブーム"なのか、ジャンルとして確立するのか?希代の飲み手で、日本ワインのキーパーソン、ウィルトス・代表の中尾有(なかおたもつ)さんに訊きました。

あらためて訊く、オレンジワインとは?

wa-syu:オレンジワインって何ですかと訊ねられたら、中尾さんはどのように答えますか?
ウィルトス・中尾有さん(以下、中尾敬称略):オレンジワインって、人によって解釈が違いますよね。造り手さんによっても定義づけが違いますし、ある種のマーケティング用語といったような性格もある。一つだけ言えるのは、白ワインの一種であること。それは確かです。ジョージアが発祥の地と言われていますが、皮をつけ込んでプレスするという昔ながらの方法は、いろいろなところでなされていたのではないかな、と思うのです。

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中尾:めちゃめちゃゆるく、"色がオレンジ色だったらオレンジワインでいいんじゃない?"っていう人もいれば、"野生酵母で発酵させるのは必須でしょ"という人もいる。もともとオレンジワインは非常に古くからある製法で、野生酵母で発酵させるときに、発酵を促す意味もあって皮と一緒に果汁をつけ込んだのがルーツなんです。だから、培養酵母でわざわざオレンジワインを造るのはちょっと違うのでは、という意見もでてくるわけです。ともあれ白ワインを仕込むときに、皮と一緒に浸け込めばオレンジワインになる、ということなのですが、ではどれくらいつけ込んだらオレンジワインになるのか?というのも、人によってさまざまです。生産者のほうで"オレンジワインを造ろう"と意識する人も増えてきて、そういう人は透明のボトルに入れたりしていますが、そういったことをまったく気にせず、昔ながらのものを出しているだけ、という人や、オレンジワインという言葉自体を嫌う人もいるくらい。本当にその人次第です。

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ふわっとした解釈でもアリ。それがオレンジワインの面白いところ!

中尾:フランスだと白はこう、ロゼはこう、という感じで法律できっちり決まっていますが、オレンジワインはそういうものではないですし、そこが面白いところだと思うんです。ふわっと"オレンジワインっていいよね"っていう感じでいい。そのほうが広がりがあってもいいのかもしれません。
wa-syu:色だけでは判断できない場合も多いですよね。どう見ても色は白ワインなのにオレンジワインだとか、もしくはその反対とか。
中尾:僕は"オレンジワインと呼べるフレーバーがあるかどうか"という点を大事にします。オレンジワインらしいフレーバーとは、皮のフレーバーが感じられるということ、そして天然酵母のニュアンスが感じられること。今となっては天然酵母を使ってないもので"オレンジワイン"として売っているものもたくさんありますが、ナチュラルワインからの派生である以上は、やはり野生酵母で造るのが本筋なのかな、と思うときもあります。単にオレンジワインが人気だからオレンジ色を出したい、というだけで皮のニュアンスを出しているとしたら、イメージが違うなと。たとえばこの『ドメーヌ・ショオ』の『あんなこんなそんな 2021』はナイアガラを使っているのですが、ナイアガラは果皮も緑色なので、つけ込んでおいてもあまりオレンジ色にはならない。でもこれは皮のニュアンスが感じられるので、やはりオレンジワインだと思うんです。

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中尾:"マセラシオン(皮もつけ込む)"自体は、酸化のリスクがあるので、本来はみんなあまりやりたがらないはずなんです。それでも、果皮のニュアンスをあえて残したワインを造りたい、という造り手さんもいます。果物の皮のニュアンスって、ブドウもリンゴもオレンジも、実は共通する部分があるんです。最後に残るフレーバーが似ているんですね。だからオレンジワインはオレンジピールを思わせるとか、柑橘を感じさせるという人が多いです。
wa-syu:オレンジワインがカテゴライズされるまでに増えてきたのは、ここ4〜5年じゃないかと感じているのですが。各地で少しずつ造る人が増えてきましたよね。

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SNS映えも今は重要。無名ワイナリーでもセンスで売れる時代。

中尾:オレンジワインの台頭は、意外にもSNSが後押ししていたのかもしれないと感じます。インスタグラムが人気になり始めたのと、ナチュラルワイン、オレンジワインが人気になりはじめたのは案外リンクしているんです。やっぱり見た目のポップさ、キャッチーさは、今やワインを構成する重要な要素。オレンジワインって、目を惹くというか、見た目にすごくわかりやすいですよね。名前だけ"オレンジワイン"となっていたら、何だろうそれ?という感じですが、キレイなオレンジ色が見えて、こういうボトルで…となると、飲んでみたいな、と思わせてくれます。つまり、今まではワインはネームバリューで売れていたけれど、今は無名のワインでも、ラベルを含めたビジュアルで売れるということもあり得る時代なんです。もちろん見た目だけではダメですが、味もSNSも含めた全体的なプレゼンテーションを競うというのは、世界的なトレンド。センスのよいところから売れていく、というところはありますね。センスのいい人は、ワインのセンスもいいな、と感じます。とくにこういったオレンジワインやナチュラルワインは、醸造技術も必要ではありますが、センスで造る部分も大きい。先生がいたり、教科書があるようなジャンルではないので、この見た目にフィニッシュさせるためには、どういう風に造ろうかというセンスが問われるわけです。これまでのクラシックなものは、伝統を継承して造っていたり、歴史の流れの中で造っていたりするので、個人のセンスが入る余地はあまりない。どちらかというと決まったクオリティを追求する力が必要ですよね。でも今までワイン造りをあまりしてこなかった地域などは、縛られるべき伝統もない。だからその過程で、独自の造り方を生み出すセンスが必要になります。

※画像はイメージです。「NEUE Nʼs CHARDONNAY 2021」は完売しました。

NEUE Nʼs CHARDONNAY 2021/SOLD OUT

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中尾:日本もある意味、そういった自由さを発揮できる場所だと思うんです。もともとワイン造りの歴史が薄いから、先駆者といった人はそう多くはない。特にマイナーな産地、例えば新潟の『カーブドッチ・ワイナリー』などは、もともとワイナリーのまったくない土地。彼らが地域のワインを突き詰めたときに、オーソドックスなものも造るけれど、こういった『FUNPY(ファンピー)』のようなポップなものも造るセンスが出てくるんですね。"飲んでみたいな"と思わせる、センスのあるワインを生み出す力は、本当にすごいと思います。

※画像はイメージです。「2021 ファンピー オレンジ泡」は完売しました。

2021 ファンピー オレンジ泡/SOLD OUT

デラウェアのオレンジワインが多い理由とは?

wa-syu:品種でいうと、日本のオレンジワインはデラウェアが多いですね。
中尾:やはり日本でデラウェアがたくさん栽培されているから、というのもあると思います。デラウェアって比較的安く手に入りやすいので、いわば"遊べる"ブドウ品種。それだけでなく、デラウェアでオレンジワインを造ると大きなメリットがあって。デラウェアは香りが強いので、マセラシオンして酵母のフレーバーが強まると、若干ブドウ自体の香りが抑えられてバランスがよくなる。食用系ブドウ品種特有の、フォクシーフレーバーがおとなしくなるんです。また、デラウェアはいろんなところで作っていますよね。山梨、長野、山形、北海道、大阪など…。新しいワイナリーも多い地域は、やはり"オレンジワイン造ろう!"と考える若いジェネレーションも多いんです。
wa-syu:今回は、ちょっとキレイめ系のオレンジワインと、ナチュラルなニュアンスが強いオレンジワインをセレクトしています。まずはクラシックなニュアンスのあるキレイめ系オレンジワインです。

中尾:生産者の個性がすごく出ますよね。『ルミエールワイナリー』は老舗で、もともとかなりシックなワインを造っているところですし、新しい試みとして甲州種のオレンジワイン『プレステージクラス オランジェ 2021』を造っています。オフフレーバーを極力出さず、輪郭もちゃんとある、きれいなオレンジワインです。『楠わいなりー』も実力派、『デラウェア・オレンジ 2021』は濃厚で複雑な味わいを醸し出すことに成功していて、人気の銘柄です。都市型ワイナリー『BookRoad(ブックロード) ~葡蔵人~』の『オレンジ デラウェア 2021』は、美しい色をしっかり見せる透明ボトルのセレクトや、ペアリングの提案になっているラベルがやっぱり面白いですね。サーモンに合わせると、色とのマリアージュも楽しめます。クラシックな造りにしようとすると、澱をあまり残さないようになります。しっかりした輪郭のある味は、かっちりしたきちんとした料理に合いやすい。濁りの少ないものは、料理もあまりあいまいなものでなく、パキッとしたものが合うんです。

※左から1番目の画像はイメージです。2021ヴィンテージは完売しました。現在の取り扱いは、2022ヴィンテージです。
※左から2番目の画像はイメージです。2021ヴィンテージは完売しました。現在の取り扱いは、2022ヴィンテージです。

写真左から:
プレステージクラス オランジェ 2021/SOLD OUT
プレステージクラス オランジェ 2022/3,190yen(税込)

デラウェア・オレンジ 2021/SOLD OUT
デラウェア オレンジ 2022/2,860yen(税込)
オレンジ デラウェア 2021/3,630yen(税込)

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wa-syu:こちらはナチュラルなイメージのもの。無濾過・にごりタイプや、スパークリングタイプです。
中尾:『イエローマジックワイナリー』の醸造家、岩谷さんは、野生酵母も培養酵母も両方使えるし、いろんな事ができる、キャリアの長い生産者。『NEUE Nʼs CHARDONNAY(ノイエ エヌズ シャルドネ) 2021』は、果皮漬け込みの味わいから生まれる出汁感がクセになる、山形県産シャルドネのオレンジワインです。また『カーブドッチワイナリー』の醸造家、掛川史人さんもいろいろなキャラクターのワインを造れる人。この『2020 ファンピー オレンジ』のようなポップなものもできるし、クラシックなものもできる、引き出しの多い人です。『ドメーヌ・ショオ』の小林さんはもともと細菌学をやっていたような人で、素晴らしいイマジネーションがありながら、菌の働きなども熟知している人。『あんなこんなそんな 2021』をはじめ、どのワインを飲んでも独特の面白さが出てきています。こういった濁りが強いタイプのワインは、輪郭の柔らかい味ですし、そういう柔らかくラフな料理が合うと思います。今まではワインに合わない、って思われていたような料理、たとえばアジアの料理だとか、そういうほうがよさそうですね。

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感性と感覚で楽しむ。それがオレンジワインの本質。

中尾:ペアリングというところで言うと、みんな「正解はどれなのか?」って探してしまいがちですが、ワインが持つイメージと料理が持つイメージを重ね合わせて楽しめばいいと思うんです。たとえばオレンジ色が強いものは、ぱっと見、タイ料理なんかも合いそうじゃないですか?でも、ちょっと上品な感じのものはお椀に合わせたいなとか、こういうのはさっぱりしていそうだから揚げ物が合いそうだなとか、そういうイメージでいいと思うんです。あとは、色味をあわせることは大切で、人間の本能的な部分に訴えかけると言われていて。だから赤みの肉には赤ワイン、白みの肉には白ワイン。そして味がしっかりしている白みの肉にはオレンジワインとか、そういう考えで合わせていくのはいいと思います。

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中尾:オレンジワインは、あまり深く考えないで飲めるのもいいところだと思います。小難しく考えたほうが美味しいワインと、そうでないほうが美味しいワインがあって。ちゃんと背景を知ったほうが美味しいワインもあるし、そういうのを知らずに味や質感、感性で味わう方が美味しいワインもある。オレンジワインは圧倒的に後者ですね。
全世界の中でも最も動きが活発な日本ワインの現状を目撃して立ち会えるのはラッキーなことですよね。日本ワインを楽しむというのは、クラフツマンシップを楽しむという一つの文化。特にオレンジワインは、それを感じさせてくれるジャンルでもありますので、どんどん飲んでこの文化を継承していきたいなと思うんです。今回のようにクラシカルなものやナチュラルなものなど、『wa-syu』にもいろいろなオレンジワインが入ってくると思いますが、今なら全銘柄完全制覇も夢じゃないですよ!(笑)

PROFILE
中尾有(なかおたもつ)
株式会社ウィルトス 代表取締役社長

[名称]株式会社ウィルトス(VIRTUS Co.Ltd.)
[住所] 東京都台東区谷中

1977年生まれ。大阪府出身。慶応大学文学部史学科にて考古学を専攻。遺跡発掘調査でエジプトを訪れた際にワインの歴史を物語る遺構を見学してから、ワインへの興味が深まりワインに関わる仕事をしたいと希望し、大学卒業後は大手食品会社やフランスワイン専門の輸入販売会社で販売やインポーターを経験。さまざまな現地買付けと、販売経験を重ねながら生産者との交流を通してワインビジネスとともにワイン文化への造詣を深め、2015年6月にフランスワイン輸入販売会社株式会社ウィルトスを設立。1号店目のワインショップを東京・神宮前にオープン。現在では、フランス、スペインのワインをはじめ、日本ワインも多数扱っている。取り扱いワイナリー数は600ほど、種類も5000種類を超える圧倒的な質と量が人気。2022年3月には、2号店目となるワインショップを東京・自由が丘にオープン。

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ここでインタビュー!ウィルトス自由が丘

2022年3月にウィルトス2号店目をオープン。日本ワインをはじめ、海外の珍しいワイン、日本のクラフトジンやビールなども扱う。店舗ではグラスワインも楽しめる。

[名称]ウィルトス自由が丘/株式会社ウィルトス
[住所]東京都目黒区緑が丘2-24-8 arbre自由が丘
[TEL]090-4405-3670
[営業時間]詳しくは、ショップにお問い合わせください。
[アクセス]東横線・大井町線「自由が丘駅」から徒歩5分

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